大阪地方裁判所 昭和26年(行)34号 判決 1963年12月03日
和歌山県有田郡藤並村熊井三、四五一
原告
山下一男
右訴訟代理人弁護士
岩橋東太郎
大阪市東区杉山町
被告
大阪国税局長
塩見俊二
右
指定代理人 叶和夫
同右
仲村清一
同右
堀尾三郎
同右
柳岡巧
同右
塩治正実
右当事者間の所得金額確定請求事件について、当裁判所は昭和三八年九月三日終結した口頭弁論に基き次のとおり判決する。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、申立
原告訴訟代理人は「被告が原告に対し昭和二六年四月二日付でなした原告の昭和二四年度分所得税についての審査決定は之を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。
被告指定代理人らは主文同旨の判決を求めた。
第二、主張
原告
(請求原因)
一、原告はマニラロープ並びに実子繩等の製造販売を業とするものであるが、原告居住地を所轄する訴外湯浅税務署長は原告の昭和二四年度分の所得税についてその所得金額を原告と協議の上一七万二、〇〇〇円と決定した。
ところが同税務署長は昭和二五年二月一三日昭和二四年度中の原告の所得金額を四四万八、五九五円とする更正決定をした。
二、原告は右決定に不服であつたため昭和二五年三月七日被告に対し右更正決定に対する審査の請求をしたところ被告は昭和二六年四月二日右更正決定を是認する旨の審査決定をし同決定は同年七月二四日原告に送達された。
三、右審査決定は昭和二四年度中の原告の所得につき農業所得四万八、五九五円、事業所得四〇万円、総所得金額四四万八、五九五円とするものであるが、農業所得については原告もこれを認めるが、同年度中の原告の事業所得は一七万六、五一六円九八銭であり課税総所得金額は二二万五、一一一円九八銭である。よつて被告の右審査決定の取消を求める。
(被告の主張に対する認否)
一、被告の主張第一項のうち2期末棚卸額、4期首棚卸額は認める。
1総売上高、3総仕入高、5必要経費の各数額は争う。
同年度中における原告の総売上高は六七五万八、七二三円、総仕入高は七六六万五、四九六円三九銭、必要経費は四九万九、三五三円二銭である。
二、被告の主張第二項(総売上高)記載のマニラロープ及び漁網関係の各売上高のうち、1、5、19、39、40、41、を除いた各項目の販売先及び売上金額はいずれもこれを認める。
1新栄漁業組合に対する売上金額は二万七、九六八円、5宮井正晃に対する売上金額は五万一、六四三円、19湯浅漁業会に対する売上金額は三三万五、一五八円であり、39湯浅中央漁業会、40栩野政市、41大和芳之助に対する売上げはない。結局原告のマニラロープ及漁網関係の売上高は六六〇万一二円である。
同項記載の実子繩関係の各売上高のうち3、4、5、6、8、9記載の各販売先及び売上金額はいずれも之を認める。
1新栄漁業組合に対する売上金額は六、八五〇円、2和田漁業組合に対する売上金額は五万三〇四円、7道津恒夫に対する売上金額は一万七、五二五円であり、10ないし16項記載の販売先に対する売上げはない。
結局原告の実子繩関係の売上高は合計一五万八、七一一円である。
従つて原告の昭和二四年度中における総売上高は六七五万八、七二三円である。
三、被告の主張第三項(総仕入高)記載の各仕入金額のうち4、8記載の各仕入先及び仕入金額はいずれも之を認める。
1阪神製綱株式会社からの仕入金額は五〇三万一、八四八円一六銭、2薬師被綱株式会社からの仕入金額は三五万八、四〇二円八三銭、3日立製綱株式会社からの仕入金額は一六八万五、八五三円六一銭、5木嶋清太郎からの仕入金額は九万円、6三和製綱株式会社からの仕入金額は六万八、二六〇円一四銭である。
なお被告主張の仕入先以外に有限会社戸田製綱所から五万六、六二八円七三銭、楠部善蔵商店から一三万四、三五八円五一銭の金額の商品を仕入れている。
従つて原告の昭和二四年度中の総仕入高は七六六万五、四九六円三九銭である。
四、被告の主張第四項(必要経費)記載の各経費のうち主としてマニラロープ漁網関係の1、2のイ、ロ、3、4、実子繩関係の1、3、共通経費の1、2の各項記載の経費の金額は之を認める。
マニラロープ及び漁網関係の2のハの電話通話料は三万二、二二六円であり実子繩関係の機械修繕費は二万八、四六八円である。
従つて昭和二四年度中における原告の必要経費の総額は四九万九、三五三円二銭である。
(原告の主張)
前記のように昭和二四年度における原告のマニラロープ漁網関係の売上高は六六〇万一二円、実子繩関係の総売上高は一五万八、七一一円であり、右の売上高に対する利益率は当時物価統制令による制約を受け一割の利潤販売であつたから、マニラロープ漁網関係の収益金は六六万円を上廻らず、実子繩関係の収益金は一万五、八七〇円を上廻らず結局原告の年間総収益は六七万五、八七〇円であり、これら原告主張の必要経費四九万九、三五三円〇二銭を差引くと一七万六、五一六円九八銭が原告の昭和二四年度の事業所得となる。
被告
(請求原因に対する認否)
一、請求原因第一項のうち原告が原告主張のような事業を営むものであること、訴外湯浅税務署長が昭和二五年二月一三日原告の昭和二四年度中の所得金額を四四万八、五九五円と更正する決定をしたことは認める。
二、請求原因第二項は認める。
三、請求原因第三項のうち同年度の原告の農業所得は四万八、五九五円である。同年度中の原告の事業所得金額は後記被告の主張において述べるとおり四〇万円を上まわるものであるから被告の審査決定には何等の違法ない。
(被告の主張)
一、原告の昭和二四年度中における事業所得金額は次のとおりである。
1 総売上高 七三五万七、〇九一円三一銭
2 期末棚卸高 一七六万一、二七一円七一銭
3 総仕入高 六八九万〇、五〇三円二〇銭
4 期首棚卸高 一五万四、〇三六円四〇銭
5 必要経費 四七万五、九二一円〇二銭
事業所得金額は(1+2)-(3+4+5)により一五九万七、九〇二円四〇銭となる。
以下総売上高、総仕入高、必要経費についてその明細を示せば次のとおりである。
二、(総売上高)
マニラロープ及び漁網関係
販売先 売上金額
1 新栄漁業組合 四万七、九〇〇円
(但し運賃七二〇円、取引高税一二〇円を差引いたもの)
2 日岬漁業株式会社 二一万三、二〇〇円
3 大有水産株式会社 一八万五、九七九円
4 平野商店 四万〇、三五〇円5 宮井正晃 一七万七、〇〇〇円
6 村上新太郎 七万一、四六〇円
7 紀伊水産工業株式会社 九万七、五二〇円
8 高原春和 四八万三、九九一円
9 湯川林蔵 四八万五、〇五九円
10 紀州水産株式会社 一五万四、四四九円
11 浜瀬漁業組合 二一万四、二三八円
12 千田漁業会 六万〇、一八四円
13 三和漁業株式会社 一七万六、四五八円
14 新興漁業株式会社 二〇万六、一五二円
15 北塩屋漁業協同組合 二七万〇、七九三円
16 南塩屋漁業協同組合 一六万七、五一三円
17 神谷漁業協同組合 一八万二、一三二円
18 下津漁業協同組合 七万一、七〇二円
19 湯浅漁業会 四四万二、三九七円三一銭
(但し運賃諸掛り二万一、九二七円を差引いたもの)
20 箕島漁業組合 一一〇万〇、六三五円
21 唐尾漁業組合 一二万七、一七八円
22 湊漁業組合 一万七、六五九円
23 由良漁業組合 一二万八、四二四円
24 和田浦漁業組合 四八万八、二五六円
25 柳原漁業組合 九万四、七四七円
26 衣奈漁業組合 五万九、六一六円
27 比井漁業組合 六万八、〇九七円
28 成田常楠 九、一八〇円
29 戸津井漁業組合 六万九、五九四円
30 引本漁業組合 一九万一、七五八円
31 田中船具店 四三万七、七二三円
32 大引漁業組合 三万八、二九四円
33 南部漁業会 四万四、三二二円
34 木村正男 九万三、七五九円
35 下出久助 二万〇、七八五円
36 三尾漁業組合 一万〇、七〇六円
37 吉原漁業組合 七、九九五円
38 山下勲太郎 九万一、三三五円
39 湯浅中央漁業会 三、一九〇円
40 栩野政市 七万八、〇〇〇円
41 大和芳之助 二万円
合計 六九五万三、七三〇円三一銭
実子繩関係
販売先 売上金額
1 新栄漁業組合 一万五、八五〇円
(但し運賃及び取引高税はマニラロープの項で控除済みである)
2 和田浦漁業協同組合 二〇万二、六五八円
3 日高吉右衛門 一万〇、四一六円
4 衣奈漁業協同組合 二万二、一三四円
5 鈴木正楠 二万一、九八四円
6 成田常楠 四、二九〇円
7 道津恒夫 二万円
8 枠谷保次郎 一万二、四九六円
9 共同網 一万二、七一二円
10 平野商店 一万〇、五八〇円
11 由良漁業組合 六〇一円
12 社網 五、〇〇〇円
13 木戸寅吉 四万円
14 栩野政市 一万七、五〇〇円
15 大和芳之助 三、〇〇〇円
16 恵中徳松 四、一四〇円
合計 四〇万三、三六一円
総計 七三五万七、〇九一円三一銭
三、(総仕入高)
仕入先 仕入金額
1 阪神製綱株式会社 五〇二万九、二八八円一六銭
(但し運賃七万九、〇一二円六八銭及び取引高税五、八五六円九〇銭を加算したもの)
2 薬師製綱株式会社 一万六、五三八円八〇銭
(但し運賃一五五円を加算し値引二三六円一〇銭を差引いたもの)
3 日立製綱株式会社 一五一万八、〇六六円二三銭
(但し運賃二万二、三一三円を加算したもの)
4 東幡製綱株式会社 一四万四、四九三円 八銭
5 木嶋清太郎 二万円
6 三和製綱株式会社 六万六、四六五円六〇銭
(但し運賃一、六三五円三二銭及び取引高税六五九円六〇銭を加算し値引き一、七九四円五六銭を差引いたもの)
7 株式会社小阪井商店 九万五、六五一円三三銭
合計 六八九万〇、五〇三円二〇銭
四、(必要経費)
主としてマニラロープ漁網関係
1 荷造運賃 四万五、七六〇円
2 通信交通費 一三万二、八五五円
その明細
イ 店主販売のための出張旅費 六万円
ロ 店員中山庫太郎販売のための旅費 四万五、一〇一円二〇銭
ハ 電話通話料 二万六、七〇九円
(原告が昭和二四年度中に支払つた電話料は三万三、三八六円であるがこの中には原告の家事用の通話料が含まれているため、その八〇パーセントをもつて家事用を除いた業務用の通話料と推定したもの。)
3 交際費 三万六、〇〇〇円
4 臨時雇人費 七、一一〇円
実子繩関係
1 雇人給料 三万四、六〇〇円
2 機械修繕費 一万一、七二五円
3 動力及油代 二万五、九六九円
共通経費
1 事務員給料 七万二、〇〇〇円
2 営業資金の利息 一〇万九、九〇二円
合計 四七万五、九二一円〇二銭
(原告の主張に対する被告の答弁)
原告主張のように売上金額に差益率を乗じて所得金額を計算するのは仕入金額が明らかでない場合にのみ行う推計方法であり、本件のように各取引先別に仕入金額が判明している場合にはあくまでもこの数字を基礎として所得金額を計算すべきである。又昭和二四年当時の物価庁告示によると販売業者の統制額はロープ、漁網等の別及び規格の異なる毎に定められていたのであつてその利潤も一率ではなく各品別に一二パーセントから一五パーセントの間に定められていたのである。
また物価統制令の施行当時においては、いわゆる闇取引が一般化していたのであつて統制額が完全に守られていたとはいえず、このような事情のもとにおいて原告の主張するように単に統制利潤のみによつて所得金額を計算しても到底正確なものとはいえない。
第三立証
原告訴訟代理人は甲第一、二号証、第三号証の一、二、第四号証の一、二、第五号証、第六号証の一ないし五、第七号証の一、二、第八号証ないし第一〇号証、第一一号証の一ないし三、第一二号証ないし第四六号証を提出し、証人山下繁太郎、同栗山善吉、同角谷浅男、同木戸寅吉、同山家竹松、同日高庄次、同引網幸太郎、同若野清一郎の各証言ならびに原告本人尋問の結果を援用し、乙第一号証の一ないし三、第二、三号証、第四号証の一ないし三、第五号証、第一五号証、第一六号証の一、二、第二二ないし二四号証、第二八、二九号証は成立を認める。その余の乙号証の成立は知らないと述べた。
被告指定代理人らは乙第一号証の一ないし三、第二、三号証、第四号証の一ないし三、第五ないし八号証、第八号証の一、第九号証の一、二、第一〇、一一号証、第一二号証の一ないし三、第一三ないし一五号証、第一六号証の一、二、第一七号証、第一七号証の一、第一八ないし三一号証を提出し、証人有馬台造、同岩淵勲、同山本政次郎、同薬師詳一、同楠部善蔵、同宮井正晃、同木戸寅吉、同山家竹松、同日高庄次、同引網幸太郎、同栩野常次郎、同栩野政市、同寒川静太郎、同楠本一夫、同坂口一郎、同栗山善吉の各証言を援用し、甲第一号証、第八号証、第一一号証の一ないし三、第一二号証、第一四号証、第一七、一八号証、第二三ないし二七号証、第三〇号証、第三七号証の各成立は認める、その余の甲号各証の成立は知らないと述べた。
理由
一、昭和二五年二日一三日訴外湯浅税務署長が原告の昭和二四年度分所得税にいつて、所得金額を四四万八、五九五円とする更正決定をしたこと、原告は右決定を不服として昭和二五年三月七日被告に対し審査の請求をしたところ、被告は昭和二六年四月二日右審査請求を棄却する旨の決定をし、同年七月二四日右決定が原告に送達されたことについては当事者間に争いがない。
そこで進んで原告の請求の当否について判断する。
訴外湯浅税務署長のなした前記更正決定ならびに被告の審査決定は原告の昭和二四年度における農業所得を四万八、五九五円、事業所得を四〇万円とするものであつたこと、原告の同年度の農業所得が四万八、五九五円であたことについては当事者間に争いがない。
そこで原告の昭和二四年度における事業所得の額について、以下検討することにする。
ところで右事業所得の算定方法について、原告は昭和二四年当事時は物価統制令により、一割の利潤販売という制約を受けていたから、総売上高の一割が原告の事業の収益であり、右収益額から必要経費を控除して所得金額を算定すべきであると主張する。
原告の主張する所得額の算定方法は総売上高を規準として推計計算により収益額を算定し、これら必要経費を控除して所得額を算定しようとするものであるが、このような推計による方法は売上金額に対応する仕入金額が明碓でなく直接的な損益計算の方法によることができない場合に、ある程度客観的な収益率を規準に間接的に収益金額を推定するいわば次善の方法であつて、本件のように被告から仕入高について個別的に明碓にされており(又これについての原告の主張も個別的に明確になされている)その被告の主張の当否を検討することによつて総仕入高を確定することができ、直接的な損益計算の方法によつて所得額を算定することができるような場合にまで、かかる推計計算の方法によるべきではないことは明らかである。よつて原告主張は採用できない。
そうであるとすれば原告の昭和二四年度における事業所得の金額は、同年度総売上高に同年度期末の棚卸高を加算し、これから総仕入高、同年期首の棚卸高及び必要経費を差引いて算定すべきものである。
ところで原告の同年期首ににおける棚卸高が一五万四、〇三六円四〇銭であつたこと、同年期末における棚卸高が一七六万一、二七一円七一銭であつたことについては当事者間に争いがないから、以下当事者間に争がある総売上高、総仕入高、必要経費について項を分けて検討することとする。
二、(総売上高)
被告は原告の昭和二四年度におけるマニラロープ・漁網関係の売上高を六九五万三、七三〇円三一銭、実子繩関係の売上高を四〇万三、三六一円、総売上高を七三五万七、〇九一円三一銭と主張し、原告はマニラロープ・漁網関係の売上高を六六〇万一二円、実子繩関係の売上高一五万八、七一一円総売上高を六七五万八、七二三円と主張する。
マニラロープ・漁網関係
原告の同年度におけるマニラロープ漁網関係の売上げのうち日岬漁業株式会社、大有水産株式会社、平野商店、村上新太郎、紀伊水産工業株式会社、高原春和、湯川林蔵、紀州水産株式会社、浜瀬漁業組合、千田漁業会、三和漁業株式会社、新興漁業株式会社、北塩屋漁業協同組合、南塩屋漁業協同組合、神谷漁業協同組合、下津漁業協同組合、箕島漁業組合、唐尾漁業組合、湊漁業組合、由良漁業組合、和田浦漁業組合、柳原漁業組合、衣奈漁業組合、比井漁業組合、成田常楠、戸津井漁業組合、引本漁業組合、田中船具店、大引漁業組合、南部漁業組合、木村正男、下出久助、三尾漁業組合、吉原漁業組合、山下勲太郎の取引先に対しマニラロープ・漁網等の売上げがあつたこと及びその売上金額については当事者間に争がない。
そこで昭和二四年度において原告との取引の存否或いはその売上金額について当事者間に争いのあるマニラロープ・漁網関係の各取引先について個別的に検討することとする。
1 新栄漁業組合。原告の同組合に対する売上金額を被告は四万七、九〇〇円(但し運賃七二〇円、取引高税一二〇円を差引いたもの)と主張し、原告は二万七、九六八円であると主張する。
証人有馬台造、同岩淵勲の各証言により真正に成立したものと認められる乙第七号証には被告主張に沿う記載があるが、前記各証言によれば右乙第七号証は新栄漁業組合において原告の売上高を調査した税務職員岩淵勲のメモにすぎないから、必ずしも十分な信憑力を持つものとはいえず、更にこれと原告本人尋問の結果により真正に成正したものと認められる甲第一三号証とを対比するとき、右証拠だけでは未だ被告の主張を認めるに足らず、他にこれを認めるに足る証拠がない。よつて同組合に対する原告の売上金額は原告主張のとおり二万七、九六八円であると認められる。
2 宮井正晃。原告の同人に対する売上金額を被告は一七万七、〇〇〇円であると主張し、原告は五万一、六四三円であると主張する。
被告主張にに沿う乙第八号証(証人宮井正晃の証言により同号証の宮井正晃の氏名が自署であることが認められるから全部真正に成立したものと推定すべきである)及び乙第八号証の一(証人宮井正晃、同楠本一夫の証言により真正に成立したものと認められる)は証人宮井正晃の証言に照らしそのまゝ信用することはできず、他に被告の主張を認めるに足る証拠はない。
よつて原告の同人に対する売上金額は原告主張のとおり五万一、六四三円であると認められる。
3 湯浅漁業会。原告の同会に対する売上金額を被告は四四万二、三九七円三一銭(但し運賃諸掛り二万一、九二七円を差引いたもの)であると主張し、原告は三三万五、一五八円であると主張する。成立に争いない甲第一八号証、証人栩野常次郎の証言及び同人の証言により真正に成立したものと認められる乙第二七号証によれば、同漁業会は昭和二四年度に運賃諸掛りを含めて四六万三、三二四円三一銭のマニラロープ漁網等を原告から買入れたことを認めることができ右認定に反する証拠はない。
しかし証人山家竹松の証言及び同人の証言により真正に成立したものと認められる甲第一九号証、証人日高庄次の証言及び同人の証言により真正に成立したものと認められる甲第二〇号証、証人山本政次郎の証言(後記信用しない部分を除く)証人引網幸太郎の証言及び同人の証言により真正に成立したものと認められる甲第二二号証を総合すると、山家竹松、日高庄次、山本政次郎、引網幸太郎は湯浅漁業会の組合員であり昭和二四年度に同組合が原告から買入れた漁網等の配給を受けたが、これが同人等の漁業に適しないものであつたため直接原告に返品したこと、返品したものの価格は山家竹松が八、七九四円六一銭、日高庄次郎が三万二六二円、山下政次郎が三万七、四六七円、引網幸太郎が四万五、九八五円七〇銭であつたことを認めることができ、右認定に反する証人山本政次郎の証言の一部を当裁判所は信用せず、その他右認定を左右するに足る証拠はない。
そうすると右山家ら四名から原告に直接返品された分についてはこれを湯浅漁業会に対する原告の売上金額から控除すべきであり、これと被告の自認する運賃諸掛二万一、九二七円を前記認定の四六万三、三二四円三一銭から控除すると原告の同会に対する売上金額は原告主張の三三万五、一五八円を上廻らないことが明らかである。よつて原告の同組合に対する売上高は原告の主張とおり三三万五、一五八円であると認められる。
4 湯浅中央漁業協同組合(原被告主張の湯浅中央漁業会は湯浅中央漁業協同組合の誤記であると認められる)。被告は原告の同組合に対する売上金額(綟網代金)を三、一九〇円と主張し、原告は同組合に対する売上げはないと主張する。
成立に争いのない甲第二五号証、乙第二八号証及び証人栩野常次郎の証言を総合すると、被告が原告の同組合に対する売上げとして主張する綟網は元来湯浅漁業会が原告より購入しその代金も支払済みであるが、同漁業会の解散により右綟網の配給関係等の事務は同漁業会から湯浅中央漁業協同組合にひきつがれたものであつて、前記湯浅漁業会に対する売上金額の中に右綟網代金も包含されているものであることが認められ他に右認定を覆すに足る証拠はない。そうであるとすれば前記湯浅漁業会に対する売上金額に更にこれを加算すべきでないことは明らかであり被告の主張は採用できない。
5 栩野政市。被告は原告の同人に対する売上金額を七万八、〇〇〇円と主張し原告は同人に対する売上げはないと主張する。
被告主張に沿う乙第九号証の一、二(証人栩野政市の証言により真正に成立したものと認められる)は証人栩野政市の証言に照らし、同人が昭和二四年度と他の年度とを混同して記載したのでないかとの疑いがあるからそのまゝ信用することができず他に被告の主張を認定するに足る証拠はない。よつて被告の主張は採用できない。
6 大和芳之助。被告は同人に対する原告の売上金額を二万円と主張し、原告は同人に対する売上げはないと主張する。証人坂口一郎の証言により真正に成立したものと認められる乙第一〇号証には被告主張に沿う記載があるが、大和芳之助は書類等が残つていないため推定によつて同証を記載したものであること、取引の月日、支払の年月日も不明であること、右書面が作成されたのは昭和二八年一月であつて数年の時日の経過後であることが同証の記載自体によつて認められ、これらの事実を考え合わせると同人のいう取引が果して昭和二四年中に行われたものかどうかも疑わしいといわねばならないから、これだけでは被告の主張を認めるに足らず、他にこれを認定するに足る証拠はない。よつて被告の主張は採用できない。
以上のとおりであるから原告の昭和二四年度におけるマニラロープ・漁網関係の売上金額は原告主張のとおり六六〇万一二円であると認められる。
(実子繩関係)
原告の昭和二四年度における売上げのうち日高吉右エ門、衣奈漁業協同組合、鈴木政楠、成田常楠、枠谷保次郎、共同網の各取引先に対し実子繩等の売上げがあつたこと及びその売上金額が被告主張のとおりであることについては当事者間に争いがない。
そこで昭和二四年度において原告との取引の存否或いはその売上金額について当事者間に争いのある実子繩関係の各取引先について個別的に検討することとする。
1 新栄漁業組合。原告の同組合に対する売上金額を被告は一万五、八五〇円(但し運賃及び取引高はマニラロープ・漁網関係の項で控除ずみ)と主張し、原告は六、八五〇円と主張する。
被告主張に沿う前記乙第七号の記載だけでは被告の主張を認定するに足らないことは前記認定(マニラロープ漁綱関係1新栄漁業組合の項参照)のとおりであり他に被告の主張を認定するに足る証拠はない。よつて原告の同組合に対する売上金額は原告主張のとおり六、八五〇円であると認められる。
2 和田浦漁業組合。原告の同組合に対する売上金額を被告は二〇万二、六五八円と主張し、原告は五万三〇四円と主張する。
証人若野清一郎および坂口一郎の各証言ならびに右坂口証言により真正に成立したものと認められる乙第一二号証の一、二によると、右和田浦漁組合の事務員が被告の部下職員の調査に対し、同組合は昭和二四年中に原告からマニラロープ、すべ繩等約三五万円買入れた旨を明らかにした事実が認められるが、右の取引が果して昭和二四年中のものであつたかどうかについては、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三一号証および弁論の全趣旨に徴し、かなりの疑点の存するところであつて、被告の主張を直ちに認めることはできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。よつて同組合に対する原告の売上金額は原告主張のとおり五万三〇四円であると認められる。
3 道津恒夫。同人に対する原告の売上金額を被告は二万円と主張し、原告は一万七、五二五円と主張する。
原告本人尋問の結果により真正に成立した原告の売原簿であると認められる乙第六号証、証人有馬台造および岩淵勲の各証言により真正に成立したものと認めらる同第一一号証、及び原告本人尋問の結果によれば、原告の同人に対する売上金額は被告主張のとおり二万円であると認めることができる。右認定に反する甲第三二号証は信用できない。
4 平野商店。原告の同店に対する売上金額を被告は一万五八〇円と主張し、原告は同店に対する売上げはないと主張する。
成正に争いのない乙第二号証および前記同第六号証によれば原告の同店に対する売上金額は被告主張のとおり一万五八〇円であると認められる。右認定に反する甲第二九号証は信用できない。
5 由良漁業組合。原告の同組合に対する売上金額を被告は六〇一円と主張し、原告は同組合に対する売上げはないと主張する。
前記乙第六号証および原告本人尋問の結果によれば、原告自身の売原簿である前記乙号証に被告主張のとおりの記載もあつて、原告の同組合に対する売上金額は被告主張のとおり六〇一円であることが認められ、右認定に反する証拠はない。
6 社綱。原告の社綱に対する売上金額を被告は五、〇〇〇円と主張し、原告は社綱に対する売上げはないと主張する。被告主張に沿う乙第一三号証(証人坂口一郎の証言により真正に成正したものと認められる)は原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三三号証に照らし、未だ被告の主張を立証するに足らず、他にこれを認めるに足る証拠はない。よつて被告の主張は採用できない。
7 木戸寅吉。原告の同人に対する売上金額を被告は四万円と主張し、原告は同人に対する売上げはないと主張する。
本件にあらわれた全証拠によつても被告の主張を認めるに足らず、却つて証人木戸寅吉の証言及び同人の証言により真正に成立したものと認められる甲第三四号証によれば、昭和二四年当時には原告は木戸寅吉と取引がなかつたことが認められる。よつて被告の主張は採用できない。
8 栩野政市。原告の同人に対する売上金額を被告は一万七、五〇〇〇円と主張し原告は同人に対する売上げはないと主張する。
被告主張に沿う前記乙第九号証の一、二がそのまゝ信用できないことは前記認定(マニラロープ・漁網関係5栩野政市の項参照)のとおりであり、他に被告の主張を認めるに足る証拠はない。よつて被告の主張は採用できない。
9 大和芳之助。原告の同人に対する売上金額を被告は三、〇〇〇円と主張し、原告は同人に対する売上げはないと主張する。被告主張に沿う前記乙第一〇号証だけでは被告の主張を認めるに足らないことは前説示(マニラロープ漁網関係6大和芳之助の項参照)のとおりであり、他に被告の主張を認めるに足る証拠はない。よつて被告の主張は採用できない。
10 恵中徳松。原告の同人に対する売上金額を被告は四、一四〇円と主張し、原告は同人に対する売上はないと主張する。
前記乙第六号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告の同人に対する売上金額は被告主張のとおり四、一四〇円であることを認めることができる。右認定に反する甲第三五号証は信用し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
以上のとおりであつて右認定の各売上金額に冒頭の当事者間に争いのない売上金額を加算すると原告の昭和二四年度における実子繩関係の売上金額は一七万六、五〇七円であると認められる。
そしてこれに前記認定のマニラロープ・漁網関係の売上金額を加算すると、原告の昭和二四年度における総売上高は六七七万六、五一九円となる。
三、(総仕入高)
被告は原告の昭和二四年度における総任入高を六八九万五〇三円二〇銭であると主張し、原告は七六六万五、四九六円三九銭であると主張する。
ところで原告の同年度における仕入金額のうち東幡製綱株式会社、株式会社小阪井商店からの仕入があつたこと及びその仕入金額が被告主張のとおりであることについては当事者間に争いがない。
そこで昭和二四年度において原告との取引の存否或いはその仕入金額について当事者間に争いのある各取引先について個別的に検討することとする。
1 阪神製綱株式会社
原告の同社からの仕入金額を被告は五〇二万九、二八八円一六銭(但し運賃七万九、〇一二円六八銭及び取引高税五、八五六円九〇銭を加算したもの)であると主張し原告は五〇三万一、八四八円一六銭であると主張する。
成立に争いのない乙第一五号証及び同第二九号証によれば、原告の同社からの仕入金額は被告主張のとおり五〇二万九、二八八円一六銭であると認められ、右認定に反する甲第三八号証は信用しない。
2 薬師製綱株式会社。原告の同社からの仕入金額を被告は一万六、五三八円八〇銭(運賃一五五円を加算し、値引き二三六円一〇銭を差引いたもの)であると主張し、原告は三五万八、四〇二円八三銭であると主張する。
成立に争いのない乙第一六号証の一、二及び証人薬師祥一の証言によれば、原告の同社(もつとも仕入当時は同社の前身たる薬師製綱所と称する個人経営時代である。)からの仕入金額は被告主張のとおり一万六、五八三円八〇銭であると認められ、甲第三九号証は右証拠に照し信用し難く、他に右認定に反する証拠はない。
3 日立製綱株式会社、原告の同社からの仕入金額を被告は一五一万八、〇六六円二二銭であると主張し、原告は一六八万五、八五三円六一銭であると主張する。
被告主張に沿う乙第一七号証(証人寒川静太郎の証言により真正に成立したものと認められる)、乙第一七号証の一(同人の証言及び証人坂口一郎の証言により真正に成立したものと認められる)は証人寒川静太郎の証言及び同人の証言により真正に成立したものと認められる甲第四〇号証と対比すると原告の同社に対する取引の一部の記載が脱漏している疑いがあるからそのまゝ信用することができず、他に被告の主張を認めるに足る証拠はない。むしろ右甲第四〇号証によつて原告の同社からの仕入金額は原告主張のとおり一六八万五、八五三円六一銭であると認めるのが相当である。
4 木嶋清太郎。原告の同人からの仕入金額を被告は二万円であると主張し原告は九万円であると主張する。
証人有馬台造、岩淵勲の各証言により真正に成立したものと認められる乙第一八号証には被告主張に沿う記載があるが、同号証の記載自体によつて、右木嶋清太郎は当時の取引の帳簿も全然残つていないため取引の年月日、取引数量、取引金額も判然と記憶していないが、長みごで一〇ケ二〇〇貫位と思われるから代金は二万円位だろうと述べていること、右乙号証が作成されたのは昭和二八年一一月であつて昭和二四年当時から数年の時日が経過していることが認めれ、これと原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第四二号証では同人は昭和二四年度は貨車積一車だから九万円内外であると述べていることを考え合わせると木嶋清太郎の記憶はきはめてあいまいなものであると考えられ、前記乙号証だけでは未だ被告の主張を認めるに足らず、他にこれを認定するに足る証拠はない。よつて原告の同人からの仕入金額は原告主張のとおり九万円であると認めざるをえない。
5 三和製綱株式会社。原告の同社からの仕入金額を被告は六万六、四六五円六〇銭であると主張し、原告は六万八、二六〇円一四銭であると主張する。
証人有馬台造、同岩淵勲の各証言により真正に成立したものと認められる乙第一九号証によれば原告は同社(三和製綱所京井徳松とあるが企業の実体は同一であると認める。)から六万八、二六〇円四銭の実子繩等を仕入れたが同社から一、七九四円五六銭の値引きを受けたため結局原告の同社からの仕入金額は被告主張のとおり六万六、四六五円六〇銭であると認められる。原告本人尋問の結果により真正に成正したものと認められる甲第四三号証には、原告の主張に沿う金額の記載があるが、右は前記一、七九四円五六銭の値引を見落して、考慮されなかつた結果であると認められるから、同号証は右認定の支障にならない。
6 有限会社戸田製綱所。被告は原告の同社からの仕入れはないと主張し、原告は五万六、六二八円七三銭であると主張する。
被告主張に沿う、乙第二〇号証(証人坂口一郎の証言により真正に成正したものと認められる)の記載は原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第四四号証に照らすとき、事業年度を間違つたための誤りであることが認められるから、右認定の資料になし難いし、他に被告の主張を認めるに足る証拠はないから、原告の同会社からの仕入額は、原告主張のとおり五万六、六二八円七三銭と認めざるをえない。
7 楠部善蔵商店。被告は原告の同店からの仕入れはないと主張し、原告は一三万四、三五八円五一銭の仕入があると主張する。
本件全証拠によるも被告の主張を認めるに足らず、却つて証人楠部善蔵の証言及び同人の証言により真正に成立したものと認められる甲第四五号証によれば原告主張のとおりの事実が認められるから被告の主張は採用できない。よつて原告には同店からの仕入がありその金額は、原告主張のとおり一三万四、三五八円五一銭であるといわなければならない。
以上のとおりであつて、前記認定の各仕入金額に冒頭の当事者間に争いのない仕入金額を加算すると原告の昭和二四年度における総仕入高は七三一万九、二七七円八〇銭であると認められる。
四、必要経費
被告は昭和二四年度の原告の必要経費の総額を四七万五、九二一円二銭であると主張し、原告は四九万九、三五三円二銭であると主張する。
ところで、同年度の必要経費のうち、主としてマニラロープ漁網関係の荷造運賃、店主販売のための出張旅費、店員中山庫太郎販売のための旅費、交際費、臨時雇人費、実子繩関係の雇人給料、動力及油代、共通経費の事務員給料、利息の各項目及びその数額については当事者間に争いがない。
そこで当事者間に争いがある電話料及び機械修繕費の各数額について検討することとする。
1 電話通話料。被告は原告の昭和二四年度の電話通話料は三万二、八六〇円であるが、この中には原告の家事用の通話料が含まれているからその八〇パーセントを業務用の通話料と推定すべきであるから原告の業務用の電話通話料は二万六、七〇九円であると主張し原告は三万二、二二六円であると主張する。
ところで、原告の主張する電話通話料は昭和二四年度中に原告の支出した電話通話料全額を経費として主張しているものであり被告主張のように家事用の通話料を控除した額を主張しているものでないことはその証拠資料として提出された甲第二号証(湯浅電信電話局の証明書)による電話料金収納金額が原告主張の金額と一致しているほか、事務用通話と家事用通話との区別に触れた主張が何らなされていないこと等、本件弁論の全趣旨に徴して明らかである。そして原告が同年度中に支払つた電話通話料自体も経費にかかわりをもつ点よりして、被告主張の金額の方が原告の主張より多額である点において原告に有利であるから昭和二四年度中に原告の支払つた電話通話料が三万二、八六〇円であることは被告において自認したものというべきである。この点に関する前記甲第二号証は昭和二四年四月から昭和二五年三月までの電話通話料に関するものであるから、そのまゝ本件係争の昭和二四年一月から一二月までの電話通話料認定の資料とすることができない。従つて、争点は右認定の電話通話料全額を以つて必要経費とすべきか、それとも家事用の通話料を控除すべきか、控除するとせばその算定は如何にすべきかという点に帰するわけである。よつて以下この線に沿い被告主張のように電話通話料の八〇パーセントを業務用の通話料であると認めるのが相当であるかどうかについて検討する。
元来事業所得額を算定するに当つて控除されるべき経費は当該事業の収入を獲得するために使用された経費に限られるべく、事業者本人及びその家族が日常生活上支出した経費のごときものがこれに含まれないことは明らかである。そしてこれを電話通話料についていえば、その通話が当該事業の必要のためになされた場合に限り、その事業の経費に算入されるのであつて、本人又はその家族が事業とは関係なく日常生活の必要上使用した電話の通話料はその事業の経費に算入されないのである。
ところで証人岩淵勲の証言によれば原告方は居宅と工場が一体となつており電話はその双方の共用となつていることが認められ、証人有馬台造の証言によれば原告方付近の業者で家事用と業務用に電話を共用している場合大体その八割が業務用のものとして使用されていることを認めることができる。
原告の支払つた電話通話料につき業務用と家事用とを区別しうる資料があれば、格別、そうでない本件において被告が右近隣業者の事例に従い全通話料の八割を以て業務用の電話通話料と推認しその数額を二万六、七〇九円と定めたことが合理的根拠を欠いた違法な認定であるとは考え難い。従つてこの点に関する原告の主張は採用し難い。
2 機械修繕費。被告は原告の機械修繕費を一万一、七二五円であると主張し、原告は二万八、四六八円であると主張する。
成立に争いのない甲第八号証及び原告本人の供述によれば、原告が昭和二四年中に合計二万八、四六八円の実子繩の製造機械修繕費を支出したことが認められる。もつとも証人有馬台造は当時原告の負担していた機械修理代には本件ロープ類の製造に関係のない農機具の修理代が相当あつたように証言しているが、そうであるからといつて右甲第八号証の修理代が全部または一部がこれに該当するといえないのはいうまでもなく、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
以上のとおりであつて原告の昭和二四年度の必要経費は前記認定の各金額に冒頭の当事者間に争いのない経費の金額を加算して四九万二、六六四円二銭となる。
五、以上の認定に従つて原告の昭和二四年度における事業関係の収支を示せば次のとおりである。
1 総売上高 六七七万六、五一九円
2 期末棚卸高 一七六万一、二七一円七一銭
3 総仕入高 七三一万九、二七七円八〇銭
4 期首棚卸高 一五万四、〇三六円四〇銭
5 必要経費 四九万二、六六四円二銭
従つて原告の同年度における事業所得は(1+2)-(3+4+5)により五七万一、八一二円四九銭となる。
そしてこれと当事者間に争いのない農業所得四万八、五九五円を加算すると原告の昭和二四年度における総所得金額は六二万〇、四〇七円四九銭となる。
そして右所得金額は訴外湯浅税務署長の更正決定及びこれを是認した被告の審査決定における総所得金額四四万八、五九五円を上まわるものであることは明らかであるから被告の本件審査決定には何等の違法もないといわなければならない。
六、以上のとおりであつて原告の本訴請求はその理由がないから、これを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 井上清 裁判官 小田健司 裁判長裁判官金田宇佐夫は転補につき署名捺印することができない。裁判官 井上清)